研究概要

解明x構築

遺伝子やタンパク質は、細胞内において特定の「場所」、特定の「タイミング」でその機能を最大限に発揮します。そのため真の機能や制御メカニズムを研究するにはその物質が機能する環境を考慮した実験システムが必要不可欠です。
私たちの研究室では、細胞質の置換を可能にするセミインタクト細胞リシール技術を開発し、光学顕微鏡による最先端の可視化技術と組み合わせた、世界に類をみない独自の可視化解析システムを構築しています。これは、従来の方法では困難だった単一の細胞内で起こる機能の「場所」と「タイミング」を解析することにより、細胞内ネットワークの制御メカニズムを解明しようという新しい試みです。そしてその知見は、新たな創薬支援システムの構築へとつながっています。


セミインタクト細胞リシール技術

セミインタクト細胞とは、細菌毒素などを用いて細胞膜に穴を開け、細胞質を外へ流出させた細胞です。 セミインタクト細胞リシール技術は、この穴の開いた細胞を一個の試験管に見立て、外部より調製した細胞質成分やタンパク質などを戻してやることで、添加した細胞質に依存的な生命現象をもつ細胞を作り出す技術です。 この方法で細胞が再構築できれば、細胞をすりつぶして行う従来の生化学的手法では困難だった、生体分子が機能する「場所」と「タイミング」を考慮に入れた環境を作り出すことができます。細胞質成分の中のどんな因子が、どのようなメカニズムで生命現象を制御するかなどを解析することができるというわけです。 例えば、正常 な細胞をセミインタクト細胞にして、ある病態を示す細胞・組織から調製した細胞質を添加してやれば、「病態モデル細胞」ができるため病態細胞と正常細胞内で生起する生命現象を分析的に再構成し比較解析することができるのです。

セミインタクト細胞を用いた病態モデル細胞の構築

セミインタクト細胞リシール技術概念図


最先端イメージング

私たちの研究室では、セミインタクト細胞リシール技術により作成した「病態モデル細胞」を、共焦点レーザースキャニング顕微鏡を中心とした最新の光学顕微鏡システムを使って観測し、細胞内で特定の疾患に関わるタンパク質や遺伝子などが機能する「場所」や「タイミング」の解析を進めています。 これにより病態環境下にある様々な生体分子が、正常環境下とは大きく異なるダイナミクスを示すことが判ってきました。
また病態モデル細胞の解析は、取得した画像解析結果からいかに定量的な生物学的情報を抽出するかが極めて重要です。このことから、「Cell-Based Assay拠点創成プロジェクト」をたち上げ、「生命科学の諸問題解決に直接フィードバックできる画像情報を取得する総合的システムの創成」 をめざし、(株)ニコンとの共同研究を進めています。 目標は「形態画像から疾患の鍵分子を見つける」ことです。

最新イメージング技術による可視化の例

可視化の例1

輸送小胞の移行の観測

VSVG-GFPをERに蓄積させたCHO細胞を、さらに17℃で3時間インキュベーションし、ゴルジ体にVSVG-GFPを蓄積させる。 次に、細胞を32℃の顕微鏡ステージに移し、ゴルジ体→形質膜間輸送を開始させる。細胞の核近傍に明るく染まるゴルジ体から細胞周辺部(形質膜)に向けて、おびただしい数の輸送小胞が小胞化し移行している。 その一部には、再びゴルジ体方向への戻ってきている物もある。輸送小胞は明らかに細胞内の決まった路線(恐らく微小管)に沿って移行しているのが判る。

可視化の例2

培養CHO細胞のゴルジ体のbrefeldin Aによるチューブ化

生物毒素の一種であるbrefeldin Aは、小胞体―ゴルジ体間の小胞輸送を可逆的に阻害する物質であると同時にゴルジ体にチューブ構造を誘起し、最終的にはそのチューブ構造がERネットワークと膜融合することによってゴルジ体がERへ吸収されてしまう。セミインタクト細胞に、細胞質(細胞内膜融合を司るNSF不活化したもの)、ATP、BFAを添加することで、この一連のBFAの効果を可視化・再構成した。すると、ゴルジ体由来のチューブ構造は、ERに融合することができなく何時までも細胞質にチューブ構造を形成し続け、最終的にはゴルジ体は殆どチューブ構造になってしまう。

可視化の例1

細胞分裂時のCHO細胞ゴルジ体の娘細胞への分配

間期ゴルジ体は核周囲に一極に単一のオルガネラとして存在している。細胞分裂時(M期)には、大小様々な 大きさの膜小胞に分解し、娘細胞に均等分配される。娘細胞内では素早く小胞同士が融合し徐々にインタクトのゴルジ体に成長し、最終的には元のように核の一 極に偏在するようになる。

可視化の例1
可視化の例1

細胞分裂時のCHO細胞小胞体(ER)の娘細胞への分配

(左)間期小胞体のダイナミクス。間期の小胞体はチューブ状の膜がthree-way junctionという三つ又構造を取りながらネットワーク状に連結した構造をもつ。チューブ同士は分裂・膜融合を繰り返しながらもダイナミックに架けか えを行っている。ネットワーク構造の内水相は連続しておりその内部は核膜の内水相とも連続している。(右)M期の小胞体ネットワークの様子。小胞体ネット ワークは部分的に切断されているが、基本的にはネットワーク構造を保ちながら娘細胞に分配される。娘細胞内では、切断されていたチューブ構造同士が膜融合 しネットワーク構造を再構築する。

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